届かない祈りと、


 こんなことになるのなら、初めから言ってしまえばよかったのだろうか。
 わたしは世界のために犠牲になるのだ、と。
 だから、付いてこないで、と。
 わたしがわたしじゃなくなっていく姿を、見られたくないから、と。
 そう、真実を話して。
 そうすれば、こんなにも優しいあなたに、こんなにも辛いかおをさせなくて済んだのだろうか。


 意識は確かにあるのに、自分の意志でからだを動かすことができない。この苦痛を味わったことのある人はどれくらいいるのだろう。
 なんとなく、そう考えてみた。
 失敗したとはいえ、今まで何人も、わたしのように神子として旅に出た人はいたのだから。
 ……こうやって何かを考えていないと、何もかも忘れてしまいそうになる。
 だって、今のわたしは、わたしの身体は、まるで人形みたいになってしまっているから。
 物も見えるし会話も聞こえるし、どこかから漂ってくるおいしそうなシチューの匂いも、優しくわたしを掴んでくれる人肌の温かさもわかる。
 歩くことも襲ってきた敵から身を守るために攻撃することも、詠唱を頭の中で反芻することもできる。
 それなのに、どうして、どうして、どうして。
 わたしがあなたに伝えたいおもいやことば、そしてこのきもちを、届ける術だけがないなんて。

 初めて封印を解放したときから、少しずつ、ヒトらしさが減っていったわたしに対して、あなたは自分を、それに気付けなかった自分自身を、責めていた。
 あなたはやさしいから、泣く事も出来なくなっていたわたしの代わりに、泣いてくれもした。
 わたしはこうなることを全て、受け入れていたのに。それでも。
 あなたの気持ちは嬉しかったけれど、でもわたしがやらなくちゃいけないこと、私にしかできないことだから。そう、思っていたから、わたしはこの苦痛に耐えることができたの。
 それが、テセアラという、もう一つの世界を衰退させることになったとしても、わたしはこのシルヴァラントの未来を背負っているのだから。わたししか未来を変えることが出来ないのだから。そう思って。

 お願い、そんなに哀しい眼をして笑いかけないで。
 あなたが、そうやってわたしを心配してくれるたびに、あなたに辛い思いをさせているわたし自身を責めてしまうから。
 もう、どうにもならないことなのに、受け入れていたはずなのに、選ぶことが出来なかった今までの生き方を後悔してしまうから。


 出来損ないの天使になってしまった今のわたしに出来ること。それはただ、自由の利かない体でこうして辛そうなあなたを見つめることと、取り留めもなく自分を責めることだけ。

 ――ただ、それ、だけ。