広い中庭の片隅で、さああ、と細かい水の粒が、陽の光を浴びてきらきらと輝きながら緑の生えるプランターに撒かれていく。俺はこれを見るのが好きだ。と言っても、ただ水を撒いているところが楽しいわけじゃなく、その時にできる、七色の虹を見るのが好きなんだ。

「ペールってほんと、虹を作る天才だよな」
「それはそれは、ありがとうございますルーク様」
 ホースで水を撒いていた庭師、ペールが俺に軽く会釈する。
「でも私は、どちらかというとこの庭に一言いただいた方が嬉しいのですが」
「そうか? でも草なんて、ほっといても生えてくるじゃねーか」
「…それでも、私が手をかけて育てた花や樹がここにはたくさんありますからね。それに、愛情を込めて育てると草 花もそれに答えてくれるのですよ」
「そーいうもんなのか?」
「ええ、そうでございますよ」
「ふぅん…」
 草に関する話をされても面白くもなんともない。心底つまらない、といった口調で返すと、ペールは少し、曖昧に笑って、それでも水を撒き続けている。相変わらず七色の虹は、緩くカーブを描きながら、ペールが少しずつ動くのと共に位置を変えながら薄くなったり濃くなったりして、決して消えようとはしない。
「なぁペール、俺にもそれ、やらせてよ」
「駄目でございますルーク様、私のような庭師の仕事をお引き受けになるなど…」
「いいじゃねえか、ちょうど今父上もラムダスもいねえし、少しくらいバレねえって」
「ですが…」
「いいからいいから」
 ぐいっと、無理矢理ペールからホースを奪い取り、見よう見まねでペールがしていたみたいにホースの先端を押し潰す。
 と。

 ぶしゅうっ

「うわっ?!」

 見事に自分に水が勢いよく振りかかり、頭から水を被ってその拍子にホースも地面に落としてしまった。
「つ、つめてー…」
 上着の袖口で顔をゴシゴシと拭っていると、ペールがははは、と笑いながらホースを拾いあげて、自分の手元が見えるように近づいてくる。
「それでは駄目ですよ。こうやって、平らになるように潰すと、うまく撒けるのです」
 そう言いながら実演してみせる。そして、どうぞ、と差し出す。受け取って、言われた通りに潰してみると、さああっと、ペールがやっていたように水飛沫が広がった。
 ちょっと嬉しくなって、しばらく続けてみる。でも、一向に虹は見えてこない。
「なぁペール、虹、見えねーぞ?」
「こちらからは、よく見えていますよ。ルーク様も、虹を作るのがうまいですね」
 ペールの方を向くと、にこにこと笑いながら答える。自分では見えないのか。つまらない。
「…これ、返すわ。俺は作るより見てる方がいいや」
「そうですか、では」
 水の勢いを抑え、ペールにホースを渡す。受け取るとまた、ペールは水を撒き始める。
 さああ、と撒かれる水。
 それと共に、現れる虹。
 やっぱりこれを見ている方が、楽しいや。そう思って、七色の虹をまた、眺めることにした。